異端の建築再読

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<<   作成日時 : 2009/08/04 15:07   >>

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建築再読-F.02 パンテオン

建築鑑賞を趣味とする方に向けて描いた、空間スケッチブックです.
定説を外れた視点と自由な発想で建築を読み返した異端の再読です.
古い原稿を加筆修正して再編集しています.
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F.02 凝縮と反転の空間

パンテオン / Pantheon
 (ハドリアヌス[基本構想]/ローマ.イタリア/118-128年)

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 Google Earth-3Dギャラリーの画像です.
 パンテオンは北向きに建っています. 理由は不詳です.
 パンテオンから北の方角には「アウグストゥス廟」と
 「ポポロ広場」が一直線に並びますが、
 北向きの立地との関係は不明です.
画像

Google Earthの画像です.

ドームにはブロンズの瓦が
葺かれていましたが、
7世紀に取り外され、
その後、鉛で修理されました.


パンテオン ー Pantheon ー という名称は、
「pan(すべて)」と「theos(神)」のギリシア語に由来します。
パンテオンは「すべての神々」を祀る神殿なのです。

しかし、ローマがキリスト教時代になると、それは一神教ですから、
当然本来の意味は失われ、様々な用途に使用されていました。
ですが、パンテオンはリフォームし難い形態の建築ですから、
これまで大きな改造は免れてきました。

画像画像
 「円堂」と「玄関柱廊」は同時に建築されました.
 「玄関柱廊」の三角形の破風には彫刻が取り付けられていました.


パンテオンの形態は、球と円筒と三角と四角の構成体です。
四角いビルを見慣れた眼には、斬新で大胆な造形に見えます。
日本でいえば弥生時代にあたる時期に、コンクリート造の
巨大建造物を造り出した技術力には驚嘆させられます。
何より、その空間の造形力と建築文化に敬服させられます。

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(左)「玄関柱廊」の小屋裏です.
 当初はヴォールト(半円筒形状)の天井がありました.
(右)「円堂」の出入口です. 上部はヴォールト天井です.


正面にはギリシャ神殿風の「玄関柱廊」が付いています。
石造ですが、木造と同じ「柱・梁」の構造です。
幅は34m、奥行は15.6m、コリンシャン・オーダーの柱は
高さは14mあります。

本体の「円堂」は、内径43mの円筒に半球のドームを載せた
「壁」の構造です。
壁の厚さは6mもありますが、上部ほど軽量の材料を使っていて、
ドームの頂部の厚さは1.5m程度に薄くなっています。
薄いとはいっても、現代からみればかなりの厚さの壁です。
内側の仕上げの厚さは40cm、これも結構な厚さです。

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(左)「円堂」と「玄関」を連結する「接合部」です.
 「円堂」は、レンガ積みコンクリート造の重い建物ですから、
 壁を強固にするために盲アーチが多用してあります.
(右)「円堂」の背面です.
画像
「接合部」が無いと、
「玄関柱廊」の屋根と
「円堂」との接合に
違和感があります.


「円堂」と「玄関柱廊」は「接合部」を間に挟んで接合しています。
円筒形の壁に三角の屋根をダイレクトに連結すると、
屋根の接合部に妙な曲線ができてしまいます。
それが単純立体図形だけで構成した外観にそぐわないのです。

円筒と三角屋根の中間に大きな壁体状の「接合部」を挟むと、
屋根の納まりが良くなり、外観の違和感は解消されるのです。
玄関の列柱の円筒壁際の納まりも、うまくいきます。

この「接合部」の外観構成上の役割は、ドイツの詩人ゲーテが
1786年(37歳)のローマ旅行の時に発見していました。
やはり、彼の造形感覚は秀逸です。

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(左)画面の中央は出入口です.
(右)内部の暗さに眼が慣れるまでの僅かな時間は、
 トップライトの反射光は、特殊な光る生命体のように見えます.
画像

降雨の角度が斜めになるほど、
トップライトからの雨の降り込む量は
少なくなります.
また、内部温度が外気温より高くなれば、
内部に上昇気流が生じますから、
それがトップライトから排気されると、
雨の降り込み量は少なくなります.
それでも幾らかは降り込みますから、
床に排水設備があります.


内部は、円形平面にドーム天井の架かる1室空間です。
天井高(ドームの頂部までの高さ)は43m、直径と同じです。
つまり、内部空間には球体が完全に収まる訳です。

採光窓は直径9mのトップライトしかありません。
これは「眼」(オクルス[oculus]/ラテン語)と呼ばれています。
この「眼」は、位置から推すと「天の眼」のように想像されます。

トップライトは単純な穴ですから、少々の雨は降り込みます。
対策として、床には排水設備が用意してあります。
その小さな排水口を見ると、ここが外であるかのように錯覚します。

普通の窓を取り付ければ問題ないし雨仕舞いもいいのに、
それほどトップライトに固執したのは、空間造形上の重要な理由が
あったからです。
パンテオンの空間にはトップライトと、その光が必要だったのです。

他に採光窓はないので内部は薄暗いのですが、すぐに目は慣れます。
そして、トップライトと反射光とインテリアとが同時に見える、
ちょうどよい暗さで落ち着きます。

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「天の眼」に象徴される
トップライトから
放射される光は、
万物に生命を与える
「天の光」に見えます.


内部に入ると、人は最初にトップライトを見ます。
円形にトリミングされた天空は新鮮で、特別に奇麗に見えます。
円窓の縁から、天使が顔を覗かせているような幻想さえしてきます。

しばらくの間、円の中の雲の動きを見ていると、
逆に、トップライトの方が動いているように錯覚してきます。
内部空間の全体が、ゆっくり転回しているような気がするのです。

天井や壁面に映る楕円の光は、少しづつ形を変えながら一定軌道を
静かに移動していきます。
普段は何でもない光であっても、当たり前の自然現象であっても、
ここでは光の動きがとても神秘的に見えます。
宇宙の動きまでもが感じられるような気がしてきます。

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格間の段々状の凹みは、
内部の中心に立ってみた時に、
大小の正方形枠が同心状に見えるように
造られています.
そして周囲のニッチ(壁の凹み)や塑像も
すべて中心を向いていますから、
内部に入った最初は、
人はトップライトを見上げながら
自然に中央に歩み寄っていきます.

一般に、格間は、重量軽減のための
彫り込みだと解説されています。
しかし、それだけではなくて、
空間の「中心」を無意識に感じるための
「装置」でもあると思います.

画像

青色で塗装され
星が描かれていた
格間天井は、
宇宙空間や曼荼羅の世界を
連想させます.


ドームの表面は、段々状に凹んだ140個の格間で意匠されています。
格間の造形は、人を内部空間の中心に立つように導いています。
当初は、この天井は青色に塗装され、多くの星が描かれていました。

星や星雲の散らばる宇宙を思わせるドーム天井面を、
トップライトの光がゆっくり斜め移動していく様子は、
「天の眼」から放射される「天の光」が、
万物に生命を与えるために静かに動いているように見えます。

格間は、その光の軌道を規律するために宇宙に設定されている
グリッドのように想像されます。
また、曼陀羅に表現される世界観を連想することもあります。
つまり、宇宙の大きな営みが、パンテオンの内部に表現されている
ように見えるのです。

画像
円と正方形の
床面のパターンは、
宇宙や曼荼羅を
連想する格間天井や、
地球に存在するものの
抽象化した形態が、
床上に投影された
図形のように見えます.


床面は、円と正方形を組み合せた大理石で装飾されています。
そのパターンは、ドームの円窓と格間の正方形が床面に投影された
図形のように見えます。
あるいは、宇宙や地球上のすべての「存在するもの」を象徴して、
このパターンに表現されているようにも思えます。

トップライトの格間天井に映る光は、床面を柔らかく照らします。
その様子は、「天の光」が地球上のすべてに存在意義を与えながら、
静かに動いているように想像される光景です。

画像
宇宙はパンテオン内部の
球体空間に凝縮され、
大地はパンテオンの床面に
凝縮されているように
想像されます.


古代ローマ時代の人たちの世界観は詳細を知りませんが、
少なくとも、宇宙や自然の秩序に同調する生き方を尊重し、
生命の営みを可能にする大きな力に表敬していたと思います。
その姿勢がパンテオンに表現されているように思うのです。

パンテオンは、宇宙を内部に凝縮した空間です。
生命を育みながら、静かに規則的に変化し続ける大きな世界が、
パンテオン内部に造形されていると思うのです。
パンテオンを歩く人たちを、「天の光」の恵みを受けながら、宇宙や
曼陀羅の空間を遊泳しているように見ると、妙に嬉しくなります。

画像画像
(左)内外の意匠を逆にして取り付けた窓は、
 空間の内外が反転しているように想像させます.
(右)当初の盲窓が、壁の一部に復原してあります.


ドーム天井の下部には盲窓(めくらまど)が並んでいます。
盲窓は外に開けられないので、通風と採光には役に立たない窓です。
ある意図があって内部を意匠する「化粧の窓」なのです。

この窓は、外部に向けた意匠で造形されているように見えます。
それを内部に向けて造っているのです。
この造形は、内部と外部を反転して想像するように暗示しています。
この窓は、空間反転のイメージを導く「装置」なのです。

内外を反転して想像すると、パンテオンの内部は外部になります。
自分が、多くの窓のある建物群に囲まれた、円形広場にいるように
想像されてきます。

現在の盲窓は1747年に改造されたものです。
当初の窓は、上部の三角のペディメント(小屋根)はなく、
水平の小庇が付いて、意匠も少々異なっています。
その窓も、外部に向けたデザインのように見えます。

画像画像
(左)出入口の突き当たりに礼拝堂があります.
(右)他に、コリンシャン・オーダーの柱の建つ祭壇が6ヵ所あり、
 すべて内部空間の中心を向いています.
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祭壇は古代ギリシャ様式の
神殿を連想させます.
内外の空間を反転して
想像すると、
パンテオンの内部が
アクロポリスの空間の
ように思えてきます.


盲窓の下部には、壁面を凹ませた礼拝堂と祭壇が計7ヵ所あります。
祭壇の前面には円柱や付け柱が並び、エンタブラチュア(柱上の
水平な帯状の部分)が全部の柱を繋いでいます。
その列柱は、古代ギリシャ様式の神殿の外観を連想させます。

そして、パンテオンの内部を、外の広場のイメージと重ねると、
内部が7つの神殿に囲まれた広場空間のように想像されてきます。
それは、アテネのアクロポリスをパンテオン内部に凝縮したような
空間です。

パンテオンは「すべての神々」と「すべての人」が出会う「場」を、
内部にイメージさせているのです。
想像を自由にさえすれば、何時でもどんな人にも平等に開かれている
空間なのです。

画像画像
(左)内壁は内を囲み、外壁は外を囲む壁です.
 これに加えて、内外の空間反転を繰り返して想像すると、
 宇宙の中のパンテオンが内にローマの街を囲んでいるように
 思えてきます.
(右)パンテオンの空間イメージは、ローマや世界を包み込んで
 波紋のように広がっていくように想像されます.


「壁で囲む」と言えば「内を囲む」と思うのが普通ですが、
逆に発想して「外を囲む」と考えることもできます。
パンテオンの場合も、内壁は「内を囲」み、外壁は「外を囲」んで
いると考えることができます。
つまり、分厚い一枚の壁で内と外を同時に囲んでいるのです。

この「内と外を囲む」壁のイメージに加えて、
内外の空間を反転するイメージを繰り返して想像すると、
「すべての神々と人」の出会いの「場」が、パンテオンを中心にして
波紋のように広がっていく情景が思い浮かんできます。
ローマや世界を繰り返し包み込みながら広がっていく情景です。

後世、パンテオンの仕上げ材の多くは、他の建物に転用するために
取り外され持ち去られてしまいました。
仕上げを剥がされた建物の姿は痛々しく見えます。
たしかに、現在の世界は、そのような壁で囲むべき状態なのかも
知れません。

                     001002/090804

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