異端の建築再読

アクセスカウンタ

zoom RSS 建築再読-J.08 七福神巡りの社寺空間

<<   作成日時 : 2010/02/05 11:48   >>

面白い ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

建築再読-J.08 七福神巡りの社寺空間装置

建築鑑賞を趣味とする方に向けて描いた、空間スケッチブックです.
定説を外れた視点と自由な発想で建築を読み返した異端の再読です.
古い原稿を加筆修正して再編集しています.
□□□□□□□

J.08 人の動きを誘う空間

七福神巡りの境内 (東京都/江戸時代後期)

画像
(註1)
経王寺(東京都荒川区).

旧谷中七福神コースの
寺院(大黒天)です.

画像画像
(左)三門です.
 門が額縁になって境内を動感のある「絵画」として見せています.
(右)本堂前の参道です.
 アプローチ軸と本堂の軸が振れているので景観に動感があります.
 本堂前にはアプローチのアイストップとなる植樹と、
 大黒堂へのアプローチの分岐を予告する植樹が配置してあります.

画像

画像
(左)(註1) 三囲神社(東京都墨田区)の境内です.
 隅田川七福神コースの寺院(恵比寿・大国天)です.
(右)鳥居が境内を「絵画」のように見せています.
 拝殿の屋根の破風が「絵画」の焦点です.
 途中でアプローチが振れているので動的な印象があります.
画像画像
(左)左右対称に見えますが、拝殿が参道軸と振れているので
 威圧的な印象は薄らいで感じられます.
(右)拝殿の脇からは他の建物へのアプローチが幾つも分岐していて
 拝殿前の空間には動きが感じられます.


江戸時代後期の庶民と社寺との関わりには、純粋に信仰的な関係や、
檀家制度などの政治色の濃い関係、など様々な関係がありました。
なかには、レクレーション的な雰囲気のある関係もありました。
四国八十八か所巡り、西国三十三か所巡り、お伊勢参り、などはその
有名な例です。

東京でも、手軽で身近な「七福神詣で」が庶民に人気がありました。
「七福神詣で」は、文化・文政頃(19世紀前期)に始まった江戸の
正月行事で、大正時代頃にはかなり流行していたようです。

それは、歩いて適度な距離にある社寺を七福神に関連づけて7カ所に
グルーピングし、各所を順に巡って参拝していく庶民信仰です。
東京では15コースが設定してありました。
その七つの福徳を祈願して廻り歩く行事には、行楽的な雰囲気が
含まれていました。

画像
(註1)
三福堂(東京都目黒区)

山手七福神コースの
寺院(恵比寿)です.

画像画像
(左)灯籠がアイストップになってアプローチが大きく右折しています.
(右)対称形の配置ですが、境内が狭く、堂も小さくて、参道が左右に
 大きく分岐しているので、権威誇示の印象はありません.


「七福神詣で」の社寺の境内には、人の移動を誘う「空間装置」が
いくつか仕組まれています。
現在の境内や建物の多くは改修されていますが、江戸時代後期の
基本的な空間組織は継承されていますので、現在でも、この空間的な
仕掛けを楽しみながら歩くことができます。

その「空間装置」は、境内の環境を活かして自然な雰囲気でセット
されているので、普通はその存在に気づきません。
それは人の感覚に無意識的に作用して、境内の景観を楽しむ回遊や、
疲労感を少なくするような歩行を誘導しているのです。

画像画像
(左)図のように門の奥に境内の一部がある場合、
(右)図のように、門が太い「額縁」になって、奥の境内を「絵画」の
 ように見せます.
画像画像
(左)「額縁」がないと、境内は「絵画」のように見えません.
(右)「絵画」の中に入り込むようなイメージは、別次元の空間に
 踏み入る感覚を与えます.


「空間装置」は立地条件によって様々な形があり、また効果の強弱も
ありますが、数種のパターンに分類することができます。

「絵画の結界」
門や鳥居は、それ自体が太い「額縁」になって、奥に見える境内の
景観を一枚の絵画のように見せます。
「絵画の結界」は、境内の最初のステージを非世俗的な空間に見せ、
新鮮な印象と適度な動感を与えて境内に誘導する効果があります。

何気なく素通りしても別に構わない所です。
しかし、少し手前で「絵画」を観ると、先に見える空間が非日常的で
あることが意識されてきます。
そして、その「絵画」の中に踏み入るようにイメージすると、自分の
移動が新鮮に感じられるのです。

画像
長いアプローチがあると
門と塀は「I」型に直列
しますが、
門前の空間が狭い場合は
「凹」型の門構えにする
例が多くなります.

「凹形の門構え」
門の前に広い空間がある場合や、長い石段に続いて門がある場合は、
多くの場合、門と塀は一直線状に並んでいます。
しかし、門前に広場がなかったり長い石段がない場合は、塀が小さな
空間を凹形に囲んで門を構える形態が多く見られます。

この「凹形の門構え」は、門に向かう空間に奥行き感を演出します。
また、門の「絵画の結界」の「額縁」を強調する効果もあります。
それは人を迎え入れようとする「空間装置」なのです。

画像
門を通過した直後は
本堂は見えないので、
とりあえず設定された
参道を進みます。
その時、アイストップが
人の視線を引きつけて
移動を促します.

画像画像
(左)アイストップに視線を集中して進みます.
(右)アイストップの手前で目標が見えてきて、次のステージの
 アプローチを始めます.
 「三角形の2辺の和は他の1辺より長い」のですが、この遠回りは
 景観の変化を楽しむことができ、移動することに興味が持てます.

「アイストップ」
境内の回遊のスタート地点で、目標の本堂などを樹木や建物で隠して
直接には見せず、目標に最短距離で導かないアプローチ形式です。
そのアプローチの先には「焦点」があります。
「焦点」は、アプローチの景観の中で特に眼につきやすいもので、
たいていは、小さな建物や形のよい灯籠や植樹などです。
そして、最初は「焦点」に向かって進むように移動していきます。

その「焦点」に向かって進むと、参道は「焦点」の手前で屈折して、
次のステージの「焦点」あるいは目標の本堂に続いていきます。
そして次の段階のアプローチを始めます。
つまり、目標へは遠回りしてアプローチしている訳です。

それは最短距離を進む合理的なアプローチではありません。
しかし、ただ真直ぐ目標に向かう長い直線道路は退屈に感じます。
それよりも、一旦は「焦点」に引かれて進み、少々遠回りになっても
景観の変化を楽しんで歩く方が、次の移動の興味が大きくなります。
これが「アイストップ」の効果です。

画像
景観の正面に斜めに
アプローチすると、
屋根や樹木の重なりが
変化して見えるので、
移動していることに
実感があります.

画像画像
(左)アプローチ最初の景観です.
(右)移動の終局面では、建物の側面が見え、屋根が重なり、樹木の
 密度も違って見えます.
 正面への直進よりも景観が大きく変化していています.

「斜歩行」
多くの場合、建物はアプローチ軸に対して少し斜めに構えています。
すると、建物に接近する時にその見え方が少しずつ変化しますから、
空間が動的に感じられます。
自分の意志で移動していることが実感できるのです。

画像

画像
(左)滝泉寺(東京都目黒区)の本堂はアプローチ軸の真正面にあります.
(右)軸上にある記念柱と香炉を避けて廻る時に景観が変化します.


建物がアプローチ軸の真正面に建つ場合だと、接近しても建物正面が
相似形に僅かに大きくなって見えるだけです。
景観の変化が少なく、移動する実感はあまりありません。
この場合、たいていは参道の中央に灯籠などの直進の障害となる物が
置かれています。
その障害物を避けて廻る時に景観が大きく動くので、変化に乏しい
直進に一瞬の動感を与えているのです。

画像画像
(左)「広くて明るい」空間と「狭くてやや暗い」空間が交互に
 展開する架空の境内です.
(右)木立の小径や建物の間の細道などは「狭くてやや暗い」空間です.
画像画像
(左)(註1)「明暗と広狭」の空間のリズムの典型は
 清水寺(京都市)にみられます.
(右)三重塔と経堂の間を通る参道は「狭くてやや暗い」空間の例です.


「明暗と広狭」
広い境内は、いくつかのステージに分割して構成されています。
各ステージは「広くて明るい」空間と「狭くてやや暗い」空間とに
構成され、それらが交互に連なっているのです。

その空間の連なりは、回遊にリズム感を与える効果があります。
次々に展開するステージの変化を新鮮に感じながら移動するので、
物理的には長いアプローチは、感覚的には短縮されているのです。
その最も典型的な例は、京都の清水寺の境内です。

画像
(註1)
白鬚神社(東京都墨田区)

隅田川七福神コースの
寺院(寿老人)です.

画像画像
(左)直進するメインの参道にサブの参道が斜めに横切って、対称形の
 景観に動感を与えています.
(右)サブの参道は、鳥居の額縁の景観の焦点に向かう途中で屈折し、
 変化の多い景観アプローチ空間を演出しています.


「七福神詣で」の境内空間には、このほかにも様々な構成手法を観察
することができます。
それらは人の歩行速度にちょうど良い「空間の仕掛け」です。
境内を回遊していると、空間が自分を優しく迎え入れ、その先へと
導いているような気がしてくるのです。

そうした「空間の仕掛け」は、日光東照宮や桂離宮、清水寺(京都)に
より顕著に典型的なパターンをみることができます。
また、どこの町でも、「七福神詣で」以外の社寺でも、江戸時代から
続く境内に、パターンの応用例は見つけることができるものです。

その「人の移動を導く空間装置」は、いつ頃、なぜ一般化したのか、
詳細はよく分かっていません。
推測ですが「おかげまいり」の流行に関連があるのかも知れません。
「おかげまいり」とは、伊勢神宮への庶民の集団参詣の俗称です。
江戸時代の初期頃から、全国で流行した社会現象です。

画像

(註2)
「伊勢参宮宮川の渡し」
歌川広重/1855年(安政2)

「おかげまいり」の賑わいが
描かれています.
「おかげまいり」の幟が
見えます.


世情が安定し、交通網が発達して、地方の情報が集積されてくると、
閉塞感のある現状を打破したいという民衆の欲求が高揚してきます。
仕事や生活を忘れてどこかに行きたい気分が高まるのです。

それが社会一般にある種の臨界点に達した時、伊勢神宮への参詣を
口実にした集団旅行が流行したのではないかと思うのです。
庶民の自由な移動は許されていない時代ですが、「おかげまいり」に
関しては幕藩の規制も及ばなかったようです。

現状を諦観するよりも、思い切ってアクションを試みようとする機運
が次第に社会に充満してきました。
それが、江戸時代後期に「七福神詣で」を誘発したのだと思います。
そして、社寺の境内の空間構成にも「人の移動を導く空間装置」が
組み込まれていったと思うのです。

その先人の残した空間の贈り物「空間装置」は、現代の我々をも
廻り歩きを豊かな空間体験として実感させてくれます。

しかし、近代以降の建築空間には、そうした人の意識にソフトに働き
かける「移動を導く空間装置」はほとんど見かけなくなりました。
現代では、「合目的」的で機能的でスピーディな行動が要求されてい
ますから、「移動」とは距離と時間を短縮すべき「手段」なのです。
「手段」ですから、人の意識に作用する「装置」は不要なのです。
しかし、急いでひたすら歩いて周囲の景観を楽しむ気持ちのゆとりが
ないと、却って疲れてしまうような気がします。

画像
東野高校(C.アレクサンダー
/埼玉県入間市/1985年)

心地よく感じる空間パターンを、
ツリー構造(主従関係)ではなく、
ラチス構造(網の目状態)で
配置しています.

画像
第一の門の前には広場が
あるので、門と塀は直列
してもいいと思いますが、
「凹形の門構え」の形が
計画されています.

画像画像
(左)アプローチが屈折しているので、長い動線は景観が変化します.
(右)正門の奥に見える食堂が、広く延びる空間を受け止めています.
画像画像
(左)門の額縁の中の食堂廻りの空間が絵画のように見えます.
(右)門を出ると空間が大きく広がりますが、食堂の軸が空間軸と
 振れているので、囲まれた雰囲気の中に動感があります.


「七福神詣で」の空間と同じような手法は、埼玉県にある東野高校の
建物の配置構成に随所にみることができます。
江戸時代にあった歩行に優しい空間手法を、現代建築に応用した好例
だと思います。

アレクサンダーは「パターン・ランゲージ」を提唱した建築家です。
人が心地よいと感じる空間を分析して250以上のパターンに整理し、
それを地域計画に活かして、コミュニティが自然形成される空間を
造っていこうというものです。

彼が日本の近世の「移動を導く空間装置」を研究していたかどうかは
分かりません。
しかし、彼の提唱した計画手法は「七福神詣で」の境内の空間構成に
共通するものがあるような気がします。

画像
食堂から門の方向を見て
います.
動線が直線ではないので
空間に伸びやかさが
感じられます.

画像画像
(左)多目的ホールが広場の軸に斜めに配置されているので、
 圧迫感がありません.
(右)講堂も広場軸に斜めの配置なので、広場に動感があります.
画像画像
(左)ほとんどの建物はアプローチ軸に斜めに建っているので、
 キャンパス全体に流動間があります.
(右)管理棟の中の通路から見た景観は、街中の路地を想わせます.

                     010927/100205

□□□□□□□
(註1)ーGoogle Earthの画像に加筆しています.
(註2)ー「伊勢参宮宮川の渡し」/歌川広重/安政2年(1855)
   「保土ヶ谷 むかしばなし」のHPより引用した画像に
   加筆しています.
  (http://www.shinmeisya.or.jp/mukasi/osaijyo.html)

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
面白い

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
建築再読-J.08 七福神巡りの社寺空間 異端の建築再読/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる